ビジュアルサイエンス研究室
筑波大学 システム情報工学研究科 コンピュータサイエンス専攻

研究テーマ

2017年現在、CAVELabで行っている主な研究を紹介します。

舞踊動作の信号解析

ヒルベルト―ファン変換によるPerfume舞踊動作解析

 現在、カメラやモーションキャプチャによって得られた舞踊動作の信号データが、研究対象として盛んに解析されています。特にモーションキャプチャでは、人の関節の位置にマーカーを置くことで、関節の位置に加えてそれが回転した角度も取得できます。

 本研究ではこれらを踏まえて、人間のモーションデータにおける各関節の位置と回転した角度に着目し,ヒルベルト―ファン変換(Hilbert-Huang Transform:HHT)とビートトラッキングを組み合わせることによって音楽との関係を考慮した舞踊動作データのスペクトル分析を行います。現在はPerfume、日本伝統舞踊の能楽、世界無形文化財の文楽の舞踊動作解析を行っています。

3次元位相磁場のビジュアリゼーション

3次元位相磁場のビジュアリゼーション

 常微分方程式の解はその解の存在するマニフォールド、すなわち 3次元の場合曲面のトポロジーにより、カオス系であるかなどの性質を調べることができる。ベクトル場のトポロジーの可視化は現象の解明に非常に重要である。とくに、地球磁場圏は太陽磁気圏との磁場の大局的繋ぎかえ(リコネクション)により大量のエネルギーの注入があり、オーロラ現象の発生を促す。これらの現象もトポロジーの変化と捉えることができ、そのトポロジーの変化を可視化することは大変重要である。図に示すのは、オーロラ発生の原因となる地球磁気圏テール部の磁場繋ぎかえ現象のトポロジーの可視化である。

 3次元トポロジーの可視化は容易ではなく、図にあるように磁場ベクトル場の分離面と分離面にアッタチ(着地)する曲線のトポロジーにより決定される。なぜなら、分離曲面・アッタチ曲線以外の磁力線はトポロジー的に等価であるので、可視化する必要はない。これらの分離曲面・アッタチ曲線は複数結合しあい複雑なトポロジーを構成し、トポロジー則に従う。磁力線の繋ぎかえはトポロジーの変化を促し、磁気ホールを作り上げる。可視化においては複数曲線、曲線の交差関係を明示する技術が必要である。

共感覚におけるクロスモダリティ

共感覚におけるクロスモダリティ

 共感覚とは,『文字に色が見える』 『味に形を感じる』 『音に色が見える』 など,1つの刺激から,複数の知覚が無意識に引き起こされる知覚現象のことをいいます.  様々な存在する共感覚の中でも比較的多いのが,音を聴くと色を感じる『色聴』と呼ばれるタイプである.例えば,「単語や文字の発音を聴くと色が見える」 や,ドレミファソラシドなどの「音階や調性音を聴くと色が見える」.

 近年,人間ロボットの設計製造及びメディア作品の音色デザインにはクロスモダリティという要素が注目されている.クロスモダリティは人間の異なる感覚間のつながりを表しているし,人間の創造性と深く関係している. 共感覚は人間のクロスモダリティと関係しているので,共感覚の様々なクロスモダリティを利用して,芸術を創造したり理解したりすることができるのではないかと考えられている.

 本研究では紙面アンケートとウェブサイトの音→色共感覚者判定テストを同時に行い,得られたデータを分析した上で,共感覚のことを明らかにした. 特にウェブテストのデータはward法というクラスタ解析を用いて分色され,音楽と色彩のマッピング図をまとめた(上図1)。 さらに,この音と色の対応関係を,ディズニーのファンタジアの第1章(へ長調)と比較してみると,(上図2)に示すように,音楽に合わせて実験結果の色が多く使われてきている.

 今後,色字共感覚者やオーラが見える共感覚者を募っており、感覚モダリティの研究を進められると共に、 共感覚保有者群と一般群のfMRI計測データを収集し,聴覚刺激,文字記号による視覚刺激が色知覚野と小脳の同期的活動を誘発するメカニズムのモデル化を機能的・解剖学的方法を用いて研究する.

仮想現実とIllusory Ownership

OpenBCIを用いた脳波による没入感の検証

 考えてみて下さい。自分の目に映るもの、自分が感知しているもの、それは真実なのでしょうか?

 近年、ラバーハンドイリュージョン(Rubber Hand Illusion : RHI)や全身錯覚(Full Body Illusion : FBI)などの人間の身体に関する自己認識に関する研究が盛んに行われてきました。RHIとは、目の前に置かれたゴムによる擬似な手が特定な条件で自分の手と認識させられる現象のことです。FBIは他人の体を所有しているという感覚が発生する現象で、元々は脳疾患の下で生じる自己像幻想(Autoscopic Phenomena)という現象に基づいて発展してきたものですが、特定の条件下においてFBIが健康な人であっても発生することが確認されました。これをIllusory Ownershipと言います。

 現在、仮想現実(Virtual Reality)の発展により、より強く現実味のある没入感が実現されつつあります。我々はその没入感を更に深めるため、Illusory Ownershipが発生するようなVR環境について研究を行っています。ゆくゆくは、人々にVRを通じて異世界に飛び込む感覚を体験させられるようになるのを目指しています!

モルフォ蝶の構造色シミュレーションとCG

モルフォ蝶

 光テクノロジーの分野では,メタマテリアルと呼ばれる素材が注目を集めている.これまでの素材は,物質の分子配列によって光の軌跡(屈折)が決定されていた. しかし,メタマテリアルは,人工的なナノ構造によって光の軌跡を自在にコントロールしようという素材・パラダイムである.メタマテリアルを用いれば,普通の素材では不可能な"負の屈折"などの現象を実現できる. 美しい青色を放つモルフォ蝶もまた,その翅にナノレベルの微細構造を備えた天然のメタマテリアルである.

 上図は,モルフォ蝶の翅を電子顕微鏡を用いて撮影した画像である.モルフォ蝶の翅には,無数の鱗粉が瓦状に配列されている.さらに鱗粉を拡大すると,数µmの本棚に似た構造が林立していることがわかる.もっとも細かい棚の厚さは,100nm未満(髪の毛の太さの1/1000)である. 通常のスケールにおいて光の軌跡は,その直進性と屈折現象により決定することができる.しかし,このようなナノ構造では光の"波"としての振る舞いが顕著になり,その軌跡は散乱と干渉に支配される. モルフォ蝶の特異な青色とその特徴でもある後方散乱(光源方向への反射)は,この散乱と干渉によって生み出されている.

 ナノ構造の散乱・干渉による発色は,通常のレイトレーシング法で用いられる幾何光学では得ることができない. 本研究室では,Finite-Difference Time-Domain (FDTD) 法を用いたナノ光学シミュレーションによってモルフォ蝶の光学作用を数値的に解析し, 解析結果から Bidirectional Reflectance Distribution Function (BRDF) を求め,モルフォ蝶の構造色を再現した.

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